評論
末廣氏は、日本人が潜在的に受け継いできた特有の精神や、日本芸術の伝統を「書」を通し現代へ伝えるアーティストである。
「日出ずる国」古来の芸術分野に新鮮な感性を盛り込み、伝統的な書の技巧を用いた表現で現代的なアクションを起こし続ける末廣氏。鑑賞側には歴史や伝統などの重厚感とともに、今世の生活感やリズム感も感じさせる。歴史の中で洗練されてきたものと今の感性を併せた現代の美術表現のお手本ともいえるだろう。この伝統と現代的な表現を融合したアプローチは、50年以上書道分野に精通し、墨を用い表現することを哲学的に深く理解している末廣氏ならではのアウトプットである。日本画や日本の芸術に習い、和の心を込めた作品を多く制作している末廣氏。作品を見るとそのテクニックや表現方法から優れた書分野の師であること、末廣氏の性格や情熱までも作品から理解できる。そして先駆的な表現方法や発想に加え、テーマや技法にも日本の書芸術において革新的な要素がちりばめられている。
紙と墨。つまり「白と黒」というシンプルな配色を用いた作品を主体として制作しているが、そのシンプルさがより一層我々の想像を掻き立てる。末廣氏は特に黒のもつ本質を実によく理解しているアーティストだ。広がる“白”の上で躍動する“黒”のダイナミクスは、まるで溢れ出る音楽を聴いているよう。これは書道の枠を超えた新しい芸術世界である。また、今回拝見した作品の中で有彩色を用いた作品が2点あった。使われた色は青と金。どちらも気品があふれ、末廣氏の作り上げたシンプルな世界へ程よいアクセントを生み融合させている。美しく流れるような線や、かすれ、そこへ調和された色は末廣氏の表現しようとするイメージの輪郭を強調している。
描くテーマからは、自身に現れた感情や情景と真摯に向き合い続け積み上げた、作品に対する思い入れの深さが伝わる。特に作品テーマとしてシリーズ化されている「舞」は、踊り手の動きや、振り、感情がよりシンプルな形で構成され、既存の「書」においてのイメージを覆す現代的なアプローチが作用し、鑑賞者の心へ響き渡る。
そして一つ一つの線を成す筆運びもまた興味深い。末廣氏の高い表現力と洗練された筆の線が作品の荘厳さを更に確固たるものとしている。流麗な線、力いっぱいの太く伸びる線。作品を見ていると、この墨の線に命が芽生えているような感情に陥る。ここで用いられている絵師としての筆使いは、観る者を書の概念から一旦乖離させ、絵画の芸術世界へ誘うのだ。
墨の黒が持つ本質、確立されたテーマ、和筆の線。
この構成要素により絵全体が調和し、和筆で描かれた新しいフィギュラティヴ・アートの世界へ誘う。ダイナミックで新鮮な空気であふれた作品は、静的な部分とモーションとが融合され、書道、墨絵の持つ潜在的な魅力を発信しているのだ。
歴史や伝統を大切にし、世界へ日本芸術の真髄を発信することにおいて、末廣氏は先駆的な立場にあるといえるだろう。様々なアートジャンルや最先端の表現方法があふれる現代で、日本芸術の歴史を制作活動の基盤とし、揺るがない核となるテーマを持っている末廣氏の創造する墨の世界は、これからも世界的なクリエイティブ分野において様々な人々に影響を与え続けていくことだろう。